今まで手厚い株主還元を行ってきた欧米企業の一部に配当抑制の要請が出ています。対象はコロナ禍で政府支援を受けている企業。一部の企業が株主への過度な還元を行った結果新型コロナ対策ができなかった、また、コロナ対策の資金が株主に流れるのを防ぐためとされています。
手厚い株主還元に今見直しの目が向けられています。その背景を理解するには企業がどのように事業を行い、そのリターンを分配しているのかを見ていく必要があります。
企業に関わる3つの「出し手」
株主
企業に出資して、リターンをもらいます。株はよく企業を細かく切り分けた一部に例えられ、株を所有(企業に出資)していることは会社の一部を所有していることに例えられます。
後程紹介しますが、リターンがいくらになるのか最後まで分からない点が銀行の融資との違いです。
以前は「会社は株主のもの」という主張のもと、株主還元に積極的な企業が多かったですが、今回の一件で見直されそうですね。
銀行
銀行も株主と同様お金の出し手です。しかし、株主と違い、事前にどのような条件のリターンがあるか、つまり利率がいくらか取り決めをしています。(利率が変動する融資もありますが、それは「変動する」と取り決めしています)
労働者
労働者は労働力の出し手です。代わりに賃金を受け取ります。
この他、仕入れ先など企業に関わるものを挙げ出したらキリがないのでこの辺にしておきます。
企業のリターンの分け方
企業のリターンの分け方は実は損益計算書に分かりやすく出ています。
まず、ある企業が本業で稼いだ額が「売上高」になります。ここから仕入れ先へ原価を払い、その残りが「売上総利益」となります。
売上総利益から最初にリターンをもらうのが労働者です。賃金(その他諸々)を支払った残りが「営業利益(マイナスなら営業損失)」になります。
続いて銀行がリターンをもらいます。利子などを支払った残りが「経常利益(マイナスなら経常損失)」になります。
経常利益からさらにその期にあった一回限りの収入や一回限りの損失を足し引きし、税金なども払った残りが「純利益(マイナスなら順損失)」です。
この純利益の一部が配当になりインカムゲインとして株主に還元されます。
また一部は企業に内部留保され、今後の成長や危機に備えるわけですが、必要以上の内部留保は自社株買いや配当増でやはり株主に還元されます。自社株買いで株価が上がれば株主にとってはキャピタルゲインになります。
損益計算書は株の銘柄選定にも非常に有益です。さらに興味がある方にはこちらにまとめてみました。

最後にもらう株主が一番ハイリスクハイリターン
以上みてきたように利益の分配は労働者→銀行→株主の順に行われます。よって一番リスクが低いのは労働者になります。反対に一番分配の遅い株主は一番リスクが高くなります。その分事業がうまくいった時には残る利益も大きくなるのでハイリターンになります。
問題は十分な内部留保をしていたのか
ここで問題になるのが今回のコロナ禍で政府支援を受けた企業は、果たして平時に十分な内部留保をしていたのかという問題です。企業は本来その稼ぐ力を維持・向上させるために研究開発費や内部留保など短期的にはメリットを生みにくいものへも資金を振り分けていく必要があります。それができていたのかが今回問われています。
一部の企業では株主への還元を大きくするために危機対応に必要な資金まで還元してしまったという解釈もできます。また、雇用維持などのために政府支援で資金を注入たとしても配当や自社株買いを続けるのであれば、支援金を元手に配当をしているというようにも取れます。
つまり、政府支援が必要になるほどの企業は与えられた猶予の中でまず配当など株主への還元をやめて危機への備えを今からでも準備するように、ということでしょう。
以上みてきたように、今はちょうど企業のステークホルダー間の取り分の見直しをしているような時期になっています。どのステークホルダーも企業にとっては不可欠な存在ですので、企業の繁栄のためにも丁度良いバランスが見つかることを期待しています。

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